第9章 名も知らない君と(セト)
……声が聞こえた。いつも聞く憎悪や嫉妬
醜い感情が流れていく中で唯一とても綺麗な“声”が。
その綺麗な心を持っている人に会いたくて。興味が湧いて心の声を頼りにその人の居るところに向かう。
『確か……ここら辺だと思うんですけど……』
暗くひっそりとした路地裏を抜けると
都会なのに広く大きな草原が視界いっぱいに広がった。
とても綺麗でこんな所にこんな場所があったなんて……新しいお気に入りがまた一つ増え、わくわくとした気持ちが心を満たしていく。
初めてだ。こんなに心を躍らせるなんて。
かさっ
不意に草を踏む音が聞こえそちらを見る。
『……あっ…えっと…す、すみません!』
……最初に出た言葉はこれ。別にこの人は怖そうな人じゃないし
まして初対面なのに……
気弱な僕は
いつも苛められる僕は
謝ることが口癖になっているようで…もっと勇気があれば…
ネガティブ思考をループさせてる僕に
くすっと笑い声が聞こえた。
ああ…心で聞こえた声。この人だったんだ。