第56章 窮地を救うは誰の手か
一足先に小屋に入ると、信長様が薪の整理をしていた。
「あ、そのくらいなら私がやりますから、お休みください」
置いてある薪に手を伸ばすと、また手首を掴まれた。
「?」
信長「髪を切るのではなかったのか?」
ジロリと見下ろしてくる眼差しが怖い。
「やっぱりやめました。龍輝がもったいないって言うから…」
信長「お前が居た時代でどうかはわからんが、女が髪を短く切るのは俗世を捨てる時か、何かしら覚悟を決めた時だ。
髪が乾かず寒いなら、乾くまで火にあたっていろ」
食事の時間でもないのに土間にある小さな竈(かまど)に火が熾してあった。
「ありがとうございます、信長様」
竈に背を向けて座ると濡れた髪や冷えた背中に暖かさが伝わってきた。
ぬくぬくと温まっていると薪の整理を終えた信長様が少しだけ目を見開き、呆れ声で言った。
信長「貴様、物乞いのように土間に直接座るな」
「え?あ…すみません」
しかめっ面の信長様が腰掛代わりに丸太を持ってきてくれたので、ありがたく腰かけさせてもらった。
(ふふ、優しいなぁ)
でも油断は禁物だった。
信長「俺に下男の真似事をさせるとは良い度胸だ。あとでたっぷり礼を貰わねばな」
「うっ!?えーとえーとえーと…………実は非常食として、もう一箱金平糖が…」
(み、身の危険を感じるっ)
ずっと内緒にしていた金平糖の存在を明かすと信長様がフッと笑った。
信長「よし、それで手を打ってやる」
「隠してたのに…悔しい…」
なんだか信長様が凄く楽しそうだ。
今日だけじゃなく、ここに来てからずっと。