第56章 窮地を救うは誰の手か
信長様は薪を持ったまま小屋に行ってしまった。
(な、なんか怒ってた?)
小屋の戸口を茫然と見ていると、蘭丸君が歩み寄ってきた。
蘭丸「舞様は信長様に大事に想われてるんだね」
「え?」
蘭丸「さっき信長様、慌ててたよ。俺、あの方が慌てたところを見たことない。
それに多分だけど……髪を切って欲しくないって思ってるんじゃないかな」
「でもさっき好きにしろって…」
素っ気ない言葉にそんな意味合いがこもっていただろうか?
龍輝「ママの髪、綺麗だからもったいないよね。
短くしたらパパが悲しむかも」
「う……」
(そう言われると切りにくい!)
言われて見ればバッサリ髪を切ったら、謙信様に『髪の毛一本まで俺のものだと言っただろう』って怒られそうな気がする。
一緒にお酒を飲んだ時みたいに海藻料理を食べさせられるかもしれないと思ったら笑えてきた。
「ふふっ、とりあえず今日はやめておこうかな。お騒がせしてごめんね」
短刀を鞘に戻し、立ち上がった。
蘭丸君は背負っていた薪を手に持ち替えながら言った。
蘭丸「何とかしてお湯を沸かす方法考えるね。
身体をキレイにする他にも食事にだって使いたいしさ」
「ありがとう、蘭丸君」
龍輝「僕、薪を運ぶの手伝う」
蘭丸「ありがとう。じゃあ、この分お願いしようかな」
龍輝「おもーい!」
蘭丸「ハハ!鍛錬鍛錬!強くなって舞様を助けてあげなきゃね」
龍輝「う、うん」
よろめきながら懸命に歩いている姿は小さいけれど頼もしかった。