第56章 窮地を救うは誰の手か
(この辺りでいいかな)
失敗した時のために肩につくぐらいにしようと、刃を下にずらした時だった。
背後から大きな手が伸びてきて、短刀を持つ手首をがしっと掴まれた。
「わっ?」
龍輝「信長様?」
鏡を持っていた龍輝が私の背後にいる人物が誰なのかを教えてくれた。
振りかえると薪を取りに行ったはずの、信長様と蘭丸君が並んで立っていた。
蘭丸君は青ざめた顔をしていて、まん丸に目を瞠っている。
信長「貴様…、何をしている?」
圧がかかった声色にたじろいだ。
「えっと、髪を切ろうかなと思いまして」
無感情の緋色の瞳が短刀に向けられた。
蘭丸「良かった…。後ろから見たら首を切ろうとしているように見えたんだ」
「首っ?!」
(自殺しようとしているって思われたのかな)
慌てて首を振る。
「違います!川の水で洗っているので髪が長いと大変なんです。
これからもっと寒くなるだろうし、短くしようと思っただけなんです」
龍輝「首を切ったら死んじゃうよね~?」
呑気な発言にガックリくる。
「う、うん、そうだよね。龍輝を残して死んだりしないよ」
龍輝「さ、早くと切ろう」
「う?うん」
でも信長様の手がまだ手首を掴んだままだ。
「あの信長様、誤解ですので手を…」
信長「好きにしろ」
素っ気なくそう言うと、力強い手があっけなく離れた。