第56章 窮地を救うは誰の手か
「はっくしょん!」
龍輝「ふふー、おっきなくしゃみだね?ママ」
龍輝が面白がってクシャミの真似事をした。
「ふふ、そうだね」
お風呂がないここでは身体をキレイに保つのはなかなか難しかった。
大鍋でもあれば湯を沸かしてどうにかなるけど、鍋ひとつないのが現状だ。
身体は毎日固く絞った手拭いで拭いて我慢していたけど、髪は仕方ないので川の水で洗っている。
水気は拭いたけど、自然乾燥なので乾くまでが寒い。
「髪、短くしてくれば良かったな」
戦国時代に行くならと、ここ一年あえて髪を伸ばしていた。
でも川の水で洗髪するのなら、短いにこしたことはない。
これから気温も低くなっていくだろうし、ドライヤーもないんだから。
「この間美容院で綺麗に切り揃えてもらったばかりだけど、切ろうかな。
毎日こんなんじゃ、風邪ひいちゃう」
龍輝「切っちゃうの?もったいないなぁ」
「だってドライヤーもないし、今みたいに濡れままだとママ寒いよ」
龍輝「んー、そっかぁ。仕方ないね。
髪が短いママも見てみたいな」
「ふふ、自分で切るから可愛くないと思うよ」
龍輝「ママはちょっとくらい髪が変でも可愛いの!」
「はいはい、ありがとね」
いつまでこうして『可愛い』『大好き』って言ってくれるだろう?
なんて考えながら、荷物の中から短刀を取り出した。
護身用にと謙信様が渡してくれたものだ。
「髪が散らばるといけないから、お外で切ろうかな」
コンパクトサイズの鏡を龍輝に持ってもらい、肩上の辺りに刃を当てた。