第56章 窮地を救うは誰の手か
蘭丸君はここに来た次の日に目を覚まし、頭を打った影響か記憶が混濁していたけれど数日過ぎるとそれも治った。
蘭丸「舞様、助けてくれてありがとう。
改めて、俺、森蘭丸。
信長様の小姓兼顕如様の付き人です、よろしくね☆」
私に会ってみたかったと感動され、握手した手を上下にブンブンと振られた。
(わっ、わっ!?元気な人!それにすごく華がある人だな)
人懐こい笑顔は周囲を明るく照らすようで、すぐに仲良くなれそうだ。
こんな無邪気な人が、刺客だったなんて信じられなかった。
(きっと信長様と顕如の間で相当苦しんだはずだよね)
無邪気な顔の奥に本心を隠さなくてはいけなかった情勢が恨めしい。
けれど影などまったく感じさせず、蘭丸君は底抜けに明るい人だった。
蘭丸「今だから言うけど、前の本能寺の火災で舞様がキラキラ輝きながら舞い降りたのを、俺、見てたんだ。
天人(てんにん)なのかと疑っちゃうくらい綺麗で、舞様が安土城で暮らし始めたって聞いて、話してみたいってずっと思ってた。
でも俺が城に戻った頃には舞様は帰った後でさ、がっかりしたんだよ」
目をキラッキラに輝かせ、一気にまくし立てられた。
天人だなんて言われたことがなくて気恥ずかしい。
「ふふ、ありがとう。500年後から来たってだけで、町娘と変わらないよ?
普通すぎて蘭丸君をガッカリさせちゃうかも」
ワームホールから現れた時を目撃されていたなんてびっくりしたけど、そのおかげで蘭丸君は本能寺から知らない土地にいるという状況と私の素性をすぐに受け入れてくれた。
蘭丸「安土の武将が皆舞様が居なくなって寂しがってたんだよ?
普通の女性とは思えないけど。舞様のこと、もっと知りたいな」
その言葉通り、蘭丸君は何かと私の手伝いだ、話し相手だ、龍輝の世話係だと常に一緒に居てくれた。
明るく人懐こい蘭丸君の存在が、謙信様達とはぐれた寂しさを少しだけ癒してくれた。