第55章 その手をもう一度
(え?)
驚いているうちに身体の背面に温もりを感じた。
頭の下に逞しい左腕が入り込み、あっという間に腕枕をされ、お腹に右手が回った。
「え?え?信長様?」
がっちりホールド状態になるまで数秒だった。
唯一動く首を後ろに向けた。
暗闇でもはっきりと表情が見える距離で目が合った。
信長様は冬用の外套を自分と、私の上にばさっと掛けた。
(あったかい…)
信長様の温もりがジワジワと冷えた身体に伝わってきて心地よかった。
信長「貴様を枕にして寝るのは久しいな。今夜はよく眠れそうだ」
それだけ言うとすっと瞼を下ろした。
無防備に目を瞑った顔に心臓が早鐘を打ち始める。
(ね、寝ちゃうの?この状態で?ど、どうしよう)
ドキンドキンと心臓がうるさい。
信長様の枕にされたことは何度もあったけど、それは昔の話で……
勝手に心臓がときめきの音を奏で、頭には謙信様の顔がチラチラと浮かぶ。
とても眠る気分になれず身体を固くしていると、
信長「貴様、顔だけではなく気配までも騒がしいな。
いいから寝ろ。母親が体調を崩しては子が不安がる」
お腹に回っていた手が動き、あやすように頭を撫でる。
安土に居た頃の懐かしい感覚に力が抜けていく。
冷たい足先も、絡められた足から熱を分けてもらい、ぬるくなってきた。
私よりも少し高い体温が眠りを誘う。
温もりが全身を包み込み、意識がふわふわしてくる。
「信長さ、ま………」
ありがとうございます、そう最後まで伝えられず、私の意識はすとんと眠りの世界に落ちた。