第55章 その手をもう一度
「申し訳ありません、もしかして起こしてしまいましたか?」
信長「もともと俺は眠りが浅いからな。貴様がため息ばかりついて寝返りしていれば気づく」
(ああ、やっぱり起こしちゃったんだ)
「すみません……」
信長「貴様はこのような場所で寝たことはなかろう?眠れという方が無理だ」
信長様は私に一度どくように言うと、さっきまで着ていた着物と袴を広げて敷いてくれた。
信長「煙の臭いはするだろうが、これで身体の痛みは和らぐだろう。さっさと寝転べ」
「ありがとうございます」
いそいそと身体を横にする。左肩を下に、横を向いて龍輝を腕に抱く。
(さっきより痛くない)
ほっとしていると信長様は私の身体に着物を掛けなおしてくれた。
信長「これでは寒かろう」
着物が届かない背中や腰をひと撫でされ、ぞくっと震えた。
「掛けるものは全て使っていますし、我慢するしか……」
蘭丸さんには信長様が持っていた羽織を、信長様には外套を使ってもらい、持ってきたひざ掛けは龍輝の敷布団がわりに使っている。
掛けるものといえばこの着物しかない。
「あ、襦袢があるのでそれを出してきますね」
薄いけどないよりはましだ。
リュックまで取りにいこうとして信長様の腕に止められた。
信長「貴様の寒がりは襦袢では用が足りんだろう」
「それはそうですが、ないよりは…」
言いかけて口が止まった。
暗い中で信長様の黒い影が動き、私の背中側に消えた。