第55章 その手をもう一度
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囲炉裏の火が小さくなって部屋が真っ暗になった頃。
私はぐっすりと熟睡……してはいなかった。
(身体が痛い。寒いし眠れない…)
信長様に就寝の挨拶をしてから大分時間がたった。
布団も何もない床板に直接寝ているので、少しすると下にしている所が痛くなってくる。
隣で眠る龍輝が寒くないようにと極力寝返りをうたないように抱いてあげている。
着替え用の着物を掛け布団代わりにしているけど、龍輝の身体の下に巻き込むようにして使っているので、私の背中や腰まで覆いきれていない。
(う…痛い)
我慢していたけれど下になっている部分がジンジンと痛みだしてたまらず寝返りをうった。
血流が改善されて痛みが遠ざかったものの、温まっていた部分がスッと冷えた。
ゾクゾクした肌寒さは遠ざかることはなく、うつらうつらと眠りについては目を覚ますのを繰り返した。
枕もないので首も痛い。
(やだな。明日に備えてちゃんと眠りたいのに…)
床の固さと寒さに睡眠を妨げられ、目だけ強く瞑っている。
変に身体に力が入ってしまっているし、熟睡まで程遠い。
仰向けになると今度は腰と尾てい骨が痛くなってくる。
(はぁ、駄目だ。眠れない)
寝るのを諦めて囲炉裏で暖をとろうと身体を起こした時だった。
信長「眠れないのか?」
ふと空気が動き、すぐ傍に信長様の気配がした。
明かりのない部屋で黒い着物を着た信長様は、暗闇と同化して影にしか見えない。
「は、い……」
龍輝を起こさないようにと小さく返事をした。
信長「貴様は相変わらず寒さに弱いな」
ふっと小さく笑う気配がして、人差し指で頬をくすぐられた。
その手つきがなんだか甘さを含んでいる気がして、身体が熱を上げた。
気のせいだと言い聞かせながら、信長様に小声で謝った。