第55章 その手をもう一度
信長「貴様、秀吉ではあるまいに、そのようなことを言うな。せめて最後に黄色のパイナップル味とやらをよこせ」
「だ、だめです。パイナップルは甘酸っぱいので寝る前に食べたら歯に悪いんですよ」
信長様の迫力にタジタジになりながら、金平糖の箱を手で後方に押しやる。
信長「ふん、口をゆすげばよいであろう。つべこべ言わずに寄こせ」
「だめです。太りますよ!」
信長「一粒多く食べたところでそう変わらん」
言い合いしているうちに次第に笑いがこみあげてきて、
「ぷっ、ふ、ふふふ」
吹き出してしまった。
信長「貴様、何がおかしい」
「信長様があまりにも一生懸命なので、つい」
おかしをもっととせがむ結鈴や龍輝と重ねてしまった。
信長様は時々子供っぽいことをする。
安土城で金平糖をつまみ食いして秀吉さんに追いかけられている時もそうだった。
笑いが治まらず、肩を震わせながら箱を開けた。
黄色の小さな粒を取り出し、信長様の手のひらにコロンとのせた。
「はい、パイナップル味です。寝る前に口をゆすいでくださいね?」
若干子ども扱いされて信長様は些か不満げにしていたけど、黄色の金平糖を口に入れると目を輝かせた。
信長「ふむ、何ともいえぬ甘酸っぱさだ。
貴様が作った弁当といい、500年後の世には俺が知らぬ食べ物がたくさんあるのだな」
「そうですね。日本にはない食材も外国からたくさん輸入されて、お店に行くと様々な食材で溢れています。
調理法や保存方法も様々なんですよ。でもまさか信長様がウインナーをお気に召すとは意外でした」
お弁当の蓋をあけて直ぐに『なんだこの珍妙な食べ物は』と箸で持ち上げたのは、たこさんウインナーだった。