第55章 その手をもう一度
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信長「……寝たか」
「はい、慣れないことばかりで疲れたんだと思います」
現代から持ってきたお弁当を平らげると、龍輝は直ぐに膝の上でまどろみ始め、添い寝して間もなく規則正しい寝息を立てた。
「数々の無礼をお許しください」
会話を遮り、付いて回り、信長様に『おんぶー』と抱き着いた時には卒倒するかと思った。
信長「童がせわしいのは当たりまえだろう。それより貴様の話を聞かせろ。
安土を去った後、お前はどうしていた?」
視線で『隣に座れ』と暗に示され、傍に行く。囲炉裏しか光源がないのでとても暗い。
「私は……」
どう説明しようか言葉に詰まった。
信長「どうした?容易に説明出来ないのは、
貴様が500年先の世から来た人間だから…か?」
(え?今、なんて…)
驚いて見返す。
信長「何をそんなに呆けた顔をしておる。貴様が言ったのであろう。『500年先の世から来た』とな」
以前タイムスリップした時に信長様と三成君の前で確かにそう言った。
(でも…)
「そう言ったら信長様も三成君も信じてくれなかったじゃないですか」
信長様には笑い飛ばされ、三成君には『おいたわしい』とまで言われてしまった。
思い出してムッとする。
信長「あの時はな。だが貴様が光の道に姿を消した時に、あの言葉は真だったのかもしれないと…な。どうなのだ?」
う、と言葉につまる。
(姿を消した瞬間を見られた上に、一緒にワームホールに入って火事から逃れちゃったし、今更言い逃れはできないよね)
観念して頷いた。
「そうです。私は偶然500年という時を越えてしまいました」
本能寺跡でタイムスリップしたところから始まり、ここに至るまでの出来事を全て話した。
信長様は聞いている間は口を挟まず、囲炉裏の火が消えないように時々木をくべているだけだった。