第55章 その手をもう一度
信長「2年前、本能寺に火をかけ顕如を寺に引き入れたのは蘭丸だ。
顕如が襲撃に失敗し逃げた後、こいつは俺の無事を確認するまで寺に居たらしい。そのせいで怪我を負った」
(2年前…?)
ひっかかりを覚えてはっとした。
(また時がずれているんだ)
私が500年後で5年の月日を過ごしている間、謙信様は戦国時代で半年過ごしただけだった。
それと同じで、目の前にいる信長様は一度目の本能寺の変があってから2年後の信長様なんだ。
(つまり私が安土を去ってから1年半くらいしか経っていないってこと?)
さっき『5歳』と教えた時に信長様の表情が少し変わったのは、時のズレに気が付いたせい。
今更気が付いた。
「顕如の刺客だったのに、信長様の無事を確かめていたんですか?」
信長「ああ。顕如と俺の間で揺れていたこやつは、どっちつかずになり逃げる機を間違えた。
貴様が安土を去ってすぐに城へ戻ってきた蘭丸は、ふんぎりがついたのか堂々と顕如の手先であることを皆に打ち明け、その後、顕如と俺との間に立って不可侵の約束を結ばせた」
「すごい…、すごいですね!」
戦で義を貫いていく戦国時代で、話し合いでお互いを結び付けたなんて。
信長「顕如はいつ、どこで動き出すかわからぬ相手だったゆえ、不可侵の約束は俺には大きな益となった。
その成果を認め、過去の罪は不問とし傍に置いていたが、蘭丸は裏切っていた事がずっと引っかかっていたのであろうな。俺が何度逃げろと言っても去ろうとしなかった」
「そうだったんですね。目を開けてくれるといいな。
私、どんな方なのかお話してみたいです」
期待を胸に眠っている顔を見守る。
こんなに若いのに顕如と信長様の間を取り持っただなんて、どんな人か知りたい。
信長「蘭丸も貴様に会ってみたいと言っておった。
あれは…そうだ、お前が作ったくまたんを皆に配っておった時だ。皆の武将くまたんを羨ましそうに見ていたぞ」
「ふふ、じゃあ落ち着いたら武将、じゃない、小姓くまたんを作ってあげようかな」
全部脱ぎ終えた甲冑を小屋の隅にまとめて置き、私と信長様は囲炉裏の傍に腰をおろした。