第55章 その手をもう一度
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話しているうちに山小屋に到着し、暗い室内に案内した。
「時間がなかったのできちんと掃除ができませんでした。
汚いですけど休めそうですか?」
安土城の天守と比べると雲泥の差もある室内を一瞥し、信長様は頷いた。
信長「雨風が凌げればそれでよい」
信長様はおぶっていた人を火の気のない囲炉裏の横に寝かせた。
龍輝と二人でその男の人を覗き込む。
(若いなぁ。三成君よりも若いかも?)
それに凄く目を惹く容姿をしている。現代で言うアイドル顔だ。
「信長様、失礼ですがこの方のお名前をお聞きしても良いですか?
お城に居た頃はお見掛けしたことがありませんでした」
みると信長様は甲冑を外しにかかっていたので、急いで手伝いに回る。
外した籠手や脛あてを龍輝が興味津々で見ている。
信長「俺の小姓で蘭丸という。先の本能寺の火事で怪我を負い療養に出ていたゆえ、貴様が知らんのも無理はない」
「蘭丸って、もしかして森蘭丸…?」
史実では信長様と一緒に本能寺で亡くなったとされる人物だ。
目の前に横たわる美青年に釘付けになる。
(森蘭丸、火事、桔梗の紋…………)
条件が揃っている。
信長「顔色が悪いな、蘭丸を知っているのか?」
訝しむように問われ、私は震えそうになる唇に力を入れて訊ねた。
「信長様、さっき火事で燃えていた場所というのはもしかして……本能寺ですか?」
森蘭丸から信長様へと、恐る恐る目線を上げていく。
赤い目と視線がかち合い、聞かずとも答えがわかってしまった。