第55章 その手をもう一度
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龍輝「あっ!信長様が起きてるよっ!」
「あ……」
歩み寄ると確かに信長様が身体を起こして私達を見ていた。
もう一人の男の人はまだ寝たままだった。
「信長様、お加減はいかがですか?
喉が痛いとか、胸が苦しいとかないですか?」
水筒を差し出すと、信長様は水筒ではなく私の手首を掴んだ。
信長「大事ない。なぜ貴様はあそこに居たのだ?」
威厳のある低い声に龍輝がまたしても顔を輝かせている。
私も『信長様の声だ』と密かに感動しながら、質問に答えた。
「子供を連れて国から出てきたものの、偶然あの場所に着いてしまったというか……」
ワームホールの説明をしても良いのかわからず、しどろもどろな説明をする。
誤魔化しがきかない信長様は直ぐにピンときた様子で、ニヤリと笑った。
相変わらず迫力のある笑みで、初めて会った時と同じように身体がすくんだ。
信長「ほお…貴様はまたあのおかしな道を通ってきたのか?
そこに居るのはあの時の子か?にしても随分育っているようだな」
謙信様によく似た龍輝の姿を視界におさめ、信長様は赤い目をすっと細めた。
「はい。龍輝といって、5歳です。
龍輝、挨拶できる?」
『5歳』と言った時、信長様が興味深そうな顔をした。
龍輝は私の隣にしゃがみ込んでいたけれど、背筋をピンと伸ばして立ち上がると
龍輝「うん!僕、龍輝。信長様にずっと会ってみたかったの!」
邪気のない笑みを浮かべ、目をキラキラ輝かせている。
「こ、こら、龍輝ってば。信長様には座って挨拶するの!」
龍輝「えー?だって保育園で挨拶する時は皆に見えるように立ってしなさいって先生が言ってたよ」
「あー……、でも信長様には座ってしてね?」
なんとも間の抜けた会話だ。
信長様は一瞬目をみはり、そしてすぐに肩を震わせて笑い始めた。
信長「外見は軍神そのものだが、中身は丸っきり貴様だなっ」
信長様の口から出た『軍神』という言葉に身体が震えた。
やはり龍輝を見れば父親が誰かなど一目瞭然。
(ここはハッキリと言わなきゃ)