第55章 その手をもう一度
龍輝「ママ、ここどこ?熱い…」
「…!そうだね、ママも熱い。早く逃げなきゃ」
不安そうにしている龍輝を見下ろし、頭を撫でてあげる。
抱っこ紐から無防備に出ている龍輝の足を両手で庇う。
「龍輝、なるべくママの胸に顔を押し付けておいて。
煙を吸い込んじゃうから大きく息を吸っちゃ駄目よ」
龍輝「う、うん」
(逃げなきゃ、逃げ道は……)
熱で揺らめく向こうを見ると、炎がメラメラと勢いよく上がっていて逃げ道はなさそうだ。
戸も柱も天井も轟轟と音をたてて燃えている。
天井が崩れたところから夜空が見え、外は夜なのだと知った。
(夜空が炎でオレンジ色に染まってる……)
炎の勢いに足がすくみ、喉がゴクリと鳴った。
息を吸い込むと鼻の奥が焼けそうに熱く、痛かった。
(冷静に考えなきゃ)
抱いている大切な命を守るために、混乱している頭を働かせる。
ゴロゴロゴロゴロ……
頭上で音がしてもう一度空を見ると、黒い雨雲が見えた。
(ワームホールがまだ発生したままだ!)
「お願い、謙信様の元へっ!お願いっ!」
空に向かって手を上げる。
本当にワームホールを呼び寄せる力があるのなら、今こそ使う時だ。
その時、背後で激しい咳が聞こえた。
(こんな所に人が居るの!?)
びっくりして振り返ると男の人が二人倒れていた。
一人は見たことがない可愛い顔立ちの男の人で、頭から血を流して意識を失くしているようだった。
もう一人は知っている人によく似ていて、床に倒れたまま酷く咳き込んでいる……。