第55章 その手をもう一度
(姫目線)
(どうしよう、はぐれちゃった)
後ろを振り返っても誰も居ない。
着物の端でもいいから、後ろ姿でもいいから。
些細な期待は持つだけ無駄だった。
「謙信様…」
初めてワームホールに巻き込まれた時、一緒に居た佐助君とは4年もズレが生じた。
時も場所も、離ればなれになってしまうだろう。
龍輝と二人きり。ワームホールからは未だに出られないでいる。
不安で心臓が嫌な音をたて、唯一傍に居る龍輝を抱きしめる。
(何があっても龍輝は守るっ)
きっと謙信様は結鈴を守ってくれる。結鈴も謙信様の心を守ってくれるはずだ。
ふわ
足が地に着いた、と同時に熱風に髪が攫われた。
ワームホールの靄が消えるのを待ち、周辺を確認すると、
恐ろしい火の海の真っ只中だった。
「…っ!」
咄嗟に腕で鼻と口を覆った。
以前のタイムスリップの再現のようでクラリと眩暈がした。
(でも…)
以前と違うのは火の回りが早く、勢いが強い。
天井にまで火が回り、寺なのか民家なのかわからないほど燃えている。