第3章 看病一日目 可愛いは褒め言葉
今更俺の存在を知らせる文を書くくらいなら昨夜のうちに動いていただろう。
わかっていたが、まだ信用はできない。
女の手から筆をとり、紙に追加項目を書き足す。
(やはりこの筆は墨が要らないのだな。越後に普及させたいものだ)
紙さえ持っていれば書きたい時に文字をしたためられ、墨を乾かす必要もない。
書いて直ぐの文字を擦ってみたが、わずかに指が汚れただけだ。
(興味深い。この筆の仕組みを佐助は知っているだろうか)
たたき起こして聞きだしたいところをぐっとこらえた。
遠慮する舞の財布を奪い金を持たせた。
女に金を出させるわけがなかろうに、一度酒を飲んだのだから学べば良いものを。
それにしても買ってくるものの数の多さが気になる。
(その細腕で全部持てるのか?)
ついて行ってやりたいが、佐助を放ってはおけない。
今なら敵襲があったとしても佐助は昏々と眠っているだろう。
ここに通うのを許したのだから、たとえ安土の人間とはいえ俺の庇護下にある。
だがついていくことはできない…
(さっさと終わらせて帰って来るようにしむけるにはどう言えば良いか…)
『遅ければ佐助を放って探しに行く』
そう言うと舞は大慌てで出かけていった。
謙信「ふっ、まったくもって単純な女だ」
嗜虐的ともいえる笑いがこみあげた。