第53章 天命
謙信「おい、まだ寝るな」
頬を叩かれ無理やり薬らしきものを口に入れられ、しょっぱいような甘いような飲み物で流し込まれた。
佐助「安心してください。人間の身体に吸収しやすいように作られた水です」
???「う…ん、パパ?」
身体のすぐ傍で何かがモゾモゾと動き、目をやる。
俺と謙信の間にあの幼子が居た。寝ていたのかボンヤリとした顔で目を擦っている。
(夢ではなかったようだな。この幼子は舞の娘なのか?)
謙信「起こしてしまったか、すまないな」
さっきまで鋭い目つきをしていたというのに、幼子を見る眼差しは優しい。
舞にそっくりの幼子
腹の子の父親とみられていた上杉謙信
#NAME1と同郷だという猿飛佐助
この三人が揃っているなら……
(『あいつ』も居るのか…?)
光秀「……」
普段なら意識しなくとも気配を探れるというのに今はできない。
佐助「ごめんね、結鈴ちゃん。光秀さんが起きたから薬を飲ませていたんだ」
結鈴「え?」
薄茶の瞳がパチッと開き、光秀を見た。寝ぼけた顔にみるみる喜びの笑顔が浮かんだ。
謙信「まだ熱で朦朧としている。寝せてやれ。
まだ夜半過ぎだ、お前も眠れ」
結鈴「うん」
光秀に話しかけたそうにしながらも眠いのか結鈴は身体を横たえた。
謙信がその身体に着物を掛け直してやっている。
(この幼子は俺を温め、謙信はこの幼子を温めているのか)
フッと笑いがこみあげてくる。
表情は決して変えていないが謙信は光秀の心の内を読み、目をぎらつかせた。
謙信「俺とてお前と川の字で寝るなど不愉快だ。
しかし娘がお前から離れんのだから仕方なかろう。さっさと治せ。いつまでも寝ていると俺が介錯してやるからな」
二色の瞳が危うい光を放つ。
(これはこれは相変わらず物騒な男だ)
助けておいて介錯してやるとはどういう思考だ。
(だが今はこの男の情けを借りるしかなさそうだ)
ゆりと呼ばれた幼子から伝わってくる温もりに、ゆっくりと目を閉じた。