第53章 天命
――――
――
佐助は敷物代わりに背が高い草を刈って日に当てていた。
まだ半乾きの干し草の上に一枚着物を敷き、光秀を寝かせる。
佐助「…熱がかなりありますね」
佐助も光秀の熱に気づき、持ってきた荷物からありったけの布類を出して光秀に掛けたが、震えは止まらなかった。
信玄が再度火を熾し、急ごしらえで温石を作っている。
佐助「干し草の材料をもっと採ってきます」
謙信「夜に備えて水が必要だな。いってくる」
結鈴は大人がバタバタと動き回っている間、光秀の隣に潜り込んで温めていた。
結鈴「いたいのいたいのとんでいけ」
時々光秀に呼びかけては小さな手で身体をさすっている。
信玄「……」
信玄の視線が、結鈴と光秀に向けられる。
発作を起こして苦しんでいる最中、舞が同じまじないを囁き、寄り添ってくれた。
結鈴と光秀の姿があの時と重なるような思いがした。
信玄「姫は小さいのに…健気だな」
水を汲んできた謙信が桶を置いて嘆息した。
謙信「結鈴が熱を出した時、怪我をした時、ああして看病してもらったのだろう」
どこにいってしまったかわからない舞を思い、謙信は暗い顔をする。
その背中を信玄が力強くバシッと叩く。
謙信「何をする」
整った顔を不快そうに歪め、信玄を睨みつける。
信玄「辛気臭い顔するな。娘がああして頑張っているんだ。
お前はあの子を支えて守ってやらなきゃいかんだろ?」
謙信は結鈴を見て、次に切なげにポツリと呟いた。
謙信「結鈴は俺が守る。舞は龍輝を守るだろう。
だがあいつ自身は誰が守ってやるんだ」
もし同じ境遇に合っていたら?
子連れで野山に放り出されて途方に暮れていたら?
謙信は悪い考えに捕らわれ、身体がスッと冷えるようだった。
信玄「大丈夫だ。あの子は乱世で生きるために様々な分野の勉強をしていた。
知識を武器に頑張っているだろうよ。謙信、信じて時を待つんだ」
信玄に諭され、謙信は無言で頷いた。