第53章 天命
信玄が木を大量に集めて戻って来ると結鈴の姿が見えなかった。
信玄「結鈴っ!?」
辺りを見渡すと光秀の傍に小さな頭が見えた。
信玄は拾ってきた木を降ろし、結鈴の傍にしゃがみこんだ。
覗き込むとスヤスヤと寝息をたてている。
信玄「心配させるなよ?」
無邪気な寝顔に信玄はホッと息を吐いた。
みると光秀の首にタオルが巻かれている。
幼いなりに光秀を温めようとして、寝てしまったのだろう。
信玄「結鈴は優しい子だな」
着物を掛け直してやり、火の番をしていると謙信が戻ってきた。
結鈴の姿が見えず、すぐに顔を険しくさせた。
謙信「おい!結鈴はどこだ!?」
信玄は顔の前で人差し指をたて、視線を光秀の方へ送った。つられて謙信もそちらを見て結鈴を確認した。
謙信「何故…」
顔をしかめ、信玄の隣に腰を下ろした。
信玄「俺が木を集めに行っている間に明智を温めようとしたんだろうよ。夜中にたたき起こされて寝不足だったろうし寝せてやろう。
…それで良さそうな場所はあったか?」
謙信「いや、みつからなかった。周辺は平坦な土地ばかり続いて何もない。
佐助を湖付近に再度偵察に行かせたが、そちらになければ今夜はここで野営になる。
木が生えているだけ、他よりましだ」
信玄「………明智が熱を出している」
その一言で謙信は光秀の危うさを察した。
謙信「人の命とは儚い。その時は仕方あるまい」
謙信の目は信玄が熾した火をうつし揺れていた。
(舞は安土のやつらを慕っていた。明智にもしものことがあったら悲しむであろうな…)
できれば救ってやりたいが現状は厳しい。
佐助「謙信様、遅くなってすみません。湖にほど近いところに岩山があり、ちょっとした洞穴を発見しました。
中を確認しましたが問題ないようです」
佐助が朗報をもって現れ、二人の顔にわずかに安堵の色が広がった。
日が高いうちにと一行は直ぐに洞窟に移動した。