第53章 天命
信玄が懐に手を入れて巾着を取り出した。その中から何かを探し出し、細い木の枝にひと刺した。
結鈴は「ん?」と首を傾げたあと目を輝かせた。
結鈴「ましゅまろ?」
信玄は頷いて木の枝を火に近づけた。
信玄「この間テレビで見たんだ。マシュマロはそのまま食べても美味しいが、焼いても美味しいってな。こんなもんかな?」
表面が少し濡れたように光り、ほんのりきつね色になったマシュマロを枝ごと結鈴に渡した。
結鈴「わぁ、はじめて」
結鈴は大げさにフーフー息を吹きかけてマシュマロを頬張る。
何とも言えない可愛らしさに信玄は穏やかな気持ちになった。
信玄「ふっ、姫は可愛いな。火傷するなよ。ん?」
ふと光秀をみると、少し様子がおかしかった。
信玄「……」
そっと傍に寄ると光秀の身体が小刻みに震えている。
首筋に手を当てて確認すると高い熱があった。
(あれだけ傷を負ってれば熱も出るよな)
信玄は荷物の中から替えの羽織を出し、光秀の上にかけてやる。
結鈴「みつひでさん、さむいの?」
マシュマロを食べ終えた結鈴が心配そうに見ている。
信玄「ああ、熱を出して震えている。暖かくしてやらなきゃな」
と言っても着物をかけてやるくらいしかできない。
信玄「姫、もう少し木を集めてくる。明智の傍について、何かあったら大きな声で呼んでくれ。くれぐれも火に近づいてはいけないよ」
結鈴は大きく頷いて光秀の傍に座った。
(明智の野郎、危ないな)
結鈴に背を向けて歩きだした途端、信玄の顔つきは険しいものになっていた。