第53章 天命
信玄「季節は夏だろうが、佐助が言った通り北国だな。昼過ぎの一番気温が高い時間帯だっていうのに肌寒い」
落ち着いた視線は手近に咲いている花を見ていた。
佐助「ええ、体感温度で17度くらいです。
夏でこの気温ということは、ここは東北でも北の方、または北海道かもしれません。
いつの時代なのかはわかりませんが」
謙信「結鈴と明智に野営はさせられん。日が暮れる前にどこか場所を探すぞ。
信玄、お前はここに居て二人を守れ。佐助、行くぞ」
謙信と佐助は言葉を交わしながら走り出し、二手に分かれ走っていった。
信玄は二人を見送り、光秀の傍に座っている結鈴に声をかけた。
信玄「やれやれ、姫のパパは忙しいな。傍に居てやれば良いのに。
結鈴は母と離れて寂しくないか?」
信玄は草の上に胡坐をかいて座り、結鈴をその上に座らせた。
小さな体を温めてやるように腕で囲うと結鈴が嬉しそうに笑った。
結鈴「パパも、信玄様も佐助君もいるもん。
それにママがね『もし離れ離れになったら、パパはきっととっても悲しむから、結鈴が傍にいてあげるのよ』って言ってたの。
結鈴がいればパパは元気になってくれるかなー?」
クルンと丸い目を信玄に向け、無邪気に問う。
信玄「そうだな。謙信が舞と離れても取り乱さずにいるのは結鈴のおかげだ。
守るものがあれば人間は強くいられるもんだ。
姫は今のように笑っていればいい。ずっと難しい顔していたぞ」
指先で結鈴の首をくすぐるとキャッと笑い声があがった。
信玄「さぁて、周りに危険は無いようだし火でも熾(おこ)すか。
このままだと明智が寒いだろうしな。木を集めるのを手伝ってくれるか?」
結鈴は目をキランと光らせた。
結鈴「たきびするの?やる!」
二人は木を探し光秀の傍に集めた。
信玄「姫、葉がたくさんついた木や湿っぽい木は、煙がたくさん出るから駄目だぞ」
信玄が見本になるような木を結鈴に見せると、要領よく集めてきた。
信玄「よしよし、結鈴はかしこいな」
集めた木を慣れた手つきで組んで信玄が火をつける。
結鈴「わあ!もえたね、信玄様」
信玄「ああ、結鈴ががんばってくれたおかげだ。おっと、そうだ」