第53章 天命
信玄「生きてるか?」
謙信「ああ。辛うじてな。腰の傷が酷い。鉄砲によるものだ。
それに背中の傷が膿んでいる。打ち身や裂傷が十数か所、右肩と太ももに強い打撲痕、左手首は折れているな」
佐助が手当てに必要な物を手荷物から取り出している。
結鈴「みつひでさん、死んじゃう?」
信玄の腰に抱き着きながら結鈴が涙声で聞いてきた。
信玄はおもむろに結鈴を抱き上げた。
信玄「まだわからないがやってみるさ、だろ?謙信」
問いかけに頷き、手近にある木々から手当てに使えそうなものを選別する。
謙信「舞は安土を去る際、明智から生き延びるための助言を受けたらしい。
個人的には好かん男だが、あいつを助けてくれたというならば手を貸すしかあるまい。
信玄、お前達も手伝え。手遅れになるぞ」
信玄「だそうだ。姫、少し一人で待っていられるか?俺も手伝うよ」
結鈴はうんと頷き、しゃがみ込んで光秀を見ている。
俺は止血に動き、同時に信玄は折れた手首を固定していく。
謙信「佐助、水が必要だ」
佐助は飲み水がはいった水筒を差し出してきた。
佐助「とりあえずこれを。近くに水がないか探してきます。
結鈴ちゃん、パパの傍から離れないように、光秀さんを傷つけた相手がうろついているかもしれないから」
結鈴「みつひでさんはワームホールの中にいたよ」
謙信「……」
信玄「……」
走り出そうとしていた佐助はその一言に動きを止めた。