第53章 天命
(謙信目線)
非常事態だと察しても、舞を追いかけることは叶わなかった。
謙信「舞!?」
佐助「舞さんっ!」
信玄「舞っ」
ワームホールに飛び込んで直ぐに、舞と龍輝が攫われるように離れていった。
丈夫な紐を使ったというのに、大きな負荷に耐えられずぶっつりと切れ、俺と佐助の腰にダラリとぶら下がっていた。
舞は白い霞(かすみ)の向こうに行ってしまった。
(時は何故いつも俺達を引き裂くのだ!)
『謙信様っ、結鈴を…!!』
必死の形相で叫んでいた舞の声が耳に響く。
荒ぶった心を抑えて、空いてしまった左手で結鈴を抱きしめる。
(結鈴だけはなんとしても守る)
これ以上は奪わせない。
途中結鈴が声をあげていたが強風のせいで何を言っているのかはわからなかった。
――――
不意に足が地に着き、白い景色が徐々に変わっていく。
霧が晴れるように景色は色を取り戻し、青々とした木々が見えた。
(どこだ、ここは)
佐助「ワームホールから出ました。どこかの林の中のようですね。舞さんは…」
佐助は抜かりなく辺りに目を配り、すぐに俺の背後を見て固まった。
俺も気配を察知し、振り返りながら飛び退いた。
(っ、誰だ)
結鈴を抱いている身で、背後をとられては不味いというのに。
結鈴「パパ、みつひでさんが怪我してるの。助けてあげて!」
謙信「み、つひで…?」
びしょ濡れで倒れている男が居た。
謙信「結鈴、降りろ」
抱っこ紐の留め具を外し、結鈴を降ろして信玄に預けた。
謙信「……」
頭のてっぺんから足の先まで泥と血で汚れているが、確かにあの明智光秀だった。
首に手を当てると脈が弱い。
謙信「こいつが何故ここにいるかわわからんが、身体を診る。
信玄、周囲を警戒しておけ」
信玄「わかってる」
佐助と二人がかりで体勢を変えさせた。
背中に背負っていた革袋を降ろし、種子島や刀をはずしていく。
脱がせた着物を敷物代わりにして怪我の具合を確かめていく。