第51章 捻じ曲がる真実
秀吉「三成。こいつの言う通りなのか」
三成は沈痛な面持ちで頷いた。
三成「ええ。とても重傷者を抱えて下れる斜面ではありません。
それに例え抱えて下ったとしても、光秀様のこの怪我では運んでいる最中に…」
動かせばより出血が多くなり、山をおりる前に息絶える。
三成が言葉を途切らせた続きは、秀吉にもわかっていた。
秀吉「どうにか、どうにかならないのかっ」
応急手当の道具は土砂崩れで全て埋まってしまった。本当に何もない。
気ばかりが焦る。
光秀「一つ聞きたい。お館様は見つかったのか?」
琥珀の美しい目がゆるりと動いて二人に問いかけた。
秀吉が首を横に振ると、光秀は一度目を閉じ、すぐに目を開いた。
光秀「そうか、ならば俺も追いかけていかねばな」
光秀はフゥと息を吐き、身体に力を入れて起き上がった。
秀吉「おい?その身体で動くな。追いかけるってどこに!?」
光秀は秀吉の手を借りてやっと立ち上がった。
白銀の髪から泥水がしたたり落ちて着物に色をつけていく。
腰から流れ出ている血が下へ向かって流れ、白い袴に赤い筋がジワジワと広がった。
汚れに汚れた姿で光秀は言った。
光秀「謀反人、明智光秀は落ち武者狩りで深手を負い、豊臣秀吉と石田三成に追い詰められて自害した。
そういうことにしろ」
三成「光秀様、何をおっしゃっているのですか」
驚愕して三成がポツリと呟いた。
光秀「お前たちに武功をあげさせてやる。
俺を使い、信長様がいなくなった天下人の座にのしあがれ」
秀吉「馬鹿野郎っ、そんなことできるか!
お前はやってない。そうだろう!?」
秀吉が怒りを滲ませ、光秀の真意を探ろうと肩を掴んだ。
光秀は顔を歪ませ、それでも口の端にいつもの笑いを浮かべた。
光秀「……さあな。ほら、行け。土砂がまた崩れ出す前に。
信長様の後を継ぐのは秀吉、お前だ。
お前はなんとしても生きろっ」
光秀は渾身の力で秀吉を三成の方へ押しやった。