第51章 捻じ曲がる真実
二人の前で倒れていた光秀は泥で茶色に染まっていた。
身体のあちこちに赤く血が滲み、背中に大きな切り傷があった。
そして腰の辺りに……赤黒い染みが広がっている。
秀吉はその惨状を目にして悲鳴のような声をあげた。
秀吉「おい!光秀!しっかりしろ!」
さっき繋いだ光秀の手が冷たかった。
秀吉は雨に濡れて冷えたのかと思っていたが、あの冷たさは血を失った冷たさだったのだ。
光秀を抱き起すと、顔や髪にまで泥がついて汚れてしまっていた。
秀吉は手ぬぐいを出して泥をぬぐい、三成は腰の傷を確かめた。
三成「これは銃で撃たれたものです。おそらくさっきの銃声で……」
三成が痛ましそうに顔を歪め、さっきまで秀吉達が立っていたと思われる場所に目を向けた。
そこは土砂で埋まり、地形が変わっていた。
三成「身を隠したままでいれば銃で撃たれることはなかったのに、光秀様は私達を助けるために…」
菫色の瞳が悲しみの色に染まる。
秀吉「俺は何度も光秀に手を出すなと命を下した!
今日連れてきた奴らにも何度も言ってきかせたのに、なんでっ、なんでこうなった!!」
三成「光秀様がおっしゃっていましたね。知らぬうちに事実が捻じ曲がったと。
秀吉様が何度『明智光秀に傷一つ負わせず捕えろ』と命じても、すぐにそれは間違って人に伝わっていきました。
何度訂正しても間違いは正せなかった。
光秀様にも同じようなことが起こり、だから『人知を超えた力でなくては為せないようにも思える』と話されたのではないでしょうか」
秀吉「何が起きてんだ、くそっ!」
秀吉の腕に力なく抱かれ、光秀は目を閉じたままだ。
秀吉「こんなのお前じゃねぇっ!俺の腕に抱かれて黙ってるなんてっ、いつものお前ならこんなっ、こんなんじゃっ……!」
腕を掴んでも肩を掴んでもいつもスルリと逃げられ、反対に光秀から触れてくることもなかった。
稀に戯れで触れることはあっても羽がかすめるような些細な触れ方だった。
たった一度、力強く触れてきた。