第51章 捻じ曲がる真実
光秀「天気まで俺を目の敵にするのか。この大木に雷が落ちる前に出立としよう」
光秀は用をなさない手ぬぐいを絞ってから懐に入れ、木の下から出た。
途端に冷たい雨がバチバチとあたる。
数日前に負った背中の傷がズキズキと疼く。臨時で雇われた農民たちは刀の代わりに竹槍で攻撃してきた。
『背負っていた荷物』のおかげで即死は免れたが、傷は深い。
手当する間もなく逃走を続け、今に至っている。
(身体が熱い気がするのは、気のせいではないだろうな)
冷静に分析し、早く手当をしなくてはとため息を吐いた。
光秀「このまま山を越えたとしても『つて』も『城』もどうなっているかわからんな」
不可解な出来事ばかりで理解の範疇を越えている。
現状がどうなのか全く情報がはいってこない。
点々と場所を移しているため、九兵衛でさえ光秀の足取りを掴めないのだろう。
光秀「っと、行き止まりか」
道が途絶え、分かれ道があった所まで引き返そうと踵を返す。
光秀「……」
少し歩いたところで荒い足音が聞こえ、草むらに身を隠した。
ザーザーという雨音をしばらく聞いていると、やがてバチャバチャと泥水を跳ね上げる音が聞こえてきた。
(5、6人か……いや、あとからもっと来るな)
神経を研ぎ澄ませた耳が微細な音を聞き分ける。
追手1「雨脚が強くて足跡が消えちまってる!」
光秀が隠れているとも知らず、追手の者達が大きな声で会話をしている。
追手2「この道の先は崖だ。明智が逃走を続けているならあっちの道を行ったはずだ。引き返すぞ!」
追手3「待て、この先に居ないか確かめてからだ。道を間違えてそこに居たなら追い詰められるっ」
数人の足音が離れていき、すぐに戻ってきた。
追手3「奴は居なかった。戻るぞ」
バチャバチャと派手な音をあげて追手が去っていく。
抜かりなく身を隠していると、さっきより多い手勢を従えた者が現れ、先程の追手と合流した。
??「居たか?」
光秀の秀麗な眉がピクリと動いた。