第50章 絶対絶命
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(第三者目線)
――時は天正12年。
天下統一に王手をかけた信長は、京の公家達に会うため光秀を連れて馬を進めていた。
信長「今日は本能寺で休む予定だったな。あれから2年か」
光秀「そうですね。あの時は肝を冷やしました。
慌てて駆けつけてみれば信長様は小娘に助けられておられましたが」
信長が鼻をフンと鳴らして笑った。
漆黒の髪が合わせて揺れ、精悍な横顔を彩る。
信長「慌てて、か。あの夜は随分とゆるりと天幕に入ってきたものだがな」
光秀「生憎どこかの騒がしい奴とは違い、表に出ない性格なので」
今頃西方に向けて兵を進めているはずの秀吉を思い浮かべ、光秀の顔に笑みが広がる。
光秀「秀吉と三成が西方を治めれば、いよいよ天下統一を成し遂げられますね」
信長「ああ。だがこれで終わりではない。俺が成し遂げたい事は天下を統一した後にあるからな」
光秀「ふっ、お館様もお人が悪い。俺達はまだまだ休ませてはもらえないようですね」
信長がさもおかしいというように笑った。
信長「はなから休もうなどと思っておらんだろうに、よくも言えたものだ。
光秀、お前にはまだまだ働いてもらわんと困る」
光秀「困るなどと畏れ多い。あなたに拾ってもらった恩は未だ返しきれておりません。
この命尽きるまで、傍にいましょう」
信長「……」
光秀の目はまっすぐ前を見据え、まだ見えぬ先の世を見ているようだった。
信長「ところで貴様はまた『それ』を持ってきたのか?」
信長は光秀が背負っている革袋に目をやった。