第50章 絶対絶命
ゴウと音をたてて空気が動き、前方から後方へ、身体をさらうような突風が吹いた。
それは……人の力では抗えないほど、強かった
「あっ!?」
謙信「舞!」
佐助「舞さん!?」
見えない大きな手に身体ごと掴まれたようだった。
お互いを結びあっていた紐がブチブチと音を立てて切れ、佐助君とつないでいた左手が離れ、力強く抵抗してくれた右手が…無情にも離れた。
握り合っていた手が離れる瞬間、指先に謙信様の指輪が触れた。
(う、そ……っ!)
正面に居た信玄様が離れていく。
大きな身体が小さくなっていくのを見ていると、離れるスピードがどれほど速いのかわかった。
(ワームホールの中で離れちゃ駄目なのに…っ)
諦めきれず4人の方に手を伸ばす。
信玄「舞!」
驚き私を呼ぶ声が、
(もうあんなにも遠い…)
切れ長の目を見開き、言葉を失っている謙信様と目が合った。
その身体にしがみついている小さな手と短い足が見えた。
反射的に龍輝の身体を抱きしめた。
「謙信様っ!結鈴をまもっ……」
言い終わらないうちに、謙信様達の姿は白いモヤの中に消えていった。
ワームホールの中に龍輝と二人になった途端、意志とは関係ない方向に導かれた。
身体中に圧力を感じ、肺も圧迫されて苦しい。
「うっ」
(な…に、これ。どうなってるの?)
息苦しくて悲しむ余裕もない。
その時、誰もいないのに声が聞こえた。
『大丈夫……必ず助ける』
「え?」
私に似ているようで違う…少し幼さを残す女性。そんな感じの声だった。
ごうっと風が吹き荒れて目を瞑ると、風が入れ替わるように私が来た方向へと強く吹いた。
けれども私の身体は導かれるように前へと飛ばされていく。
それっきり声は聞こえず、頭が混乱したまま真っ白な空間を見つめ続けた。
龍輝が居る。
(初めての時のように気を失っちゃいけない)
それだけに意識を集中させた。