第49章 別れの挨拶
いつもの時間に二人を寝かせた後、仏壇の前に座った。
両親、祖父母の遺影を目に焼き付けるように見つめる。
シュッ
ライターでお線香に火をつけるのもこれで最後。
父が亡くなってからは朝晩かかさずお線香をあげていた。
仏具を置いている供物台には、北海道で挙げた結婚式の写真が飾ってある。
「……」
線香をあげ、おりんを慣らして手を合わせた。
「お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん。皆に会わせられなかったけど、かけがえのない大事な人に出会いました。
その人と生きていくために、この家を、この時代を去ります。
こうしてお線香をあげることも顔を見せてあげることもできないけど忘れたりしない。ずっとこの胸に皆いるよ。
あの人の居た時代へ行き、支え合って生きて行きます。幸せになるね。
今までありがとうございました。お世話になりました」
もし両親が生きていたらお嫁に行く日にきっと言ったであろう言葉を、遺影に向かって告げ、頭を下げた。
命と引きかえに産んでくれてありがとう
大変な思いをして育ててくれてありがとう
あたたかい思い出をありがとう
色んな『ありがとう』が浮かんでくる
「っ」
謙信「舞…」
いつの間にか謙信様が傍に来ていた。
硬い胸に引き寄せられた拍子に耐えていた涙がこぼれた。
謙信「家族と、生まれ育った場所から引き離してすまない」
「いえ。お嫁に行くときは皆こういう想いをすると思います。
こうしてお別れの挨拶ができただけありがたいです。
戦国時代に行ったままだったら、挨拶もできませんでしたから」
お線香の細い煙を追って、二人で遺影を見上げた。
謙信「幾久しく……二人で力を合わせ生きていくと誓う」
「え…」
隣を見ると、謙信様は一心に遺影を見ている。