第49章 別れの挨拶
(姫目線)
秋は深まり、朝晩の冷え込みに冬の気配が漂い始めた頃…
「もし誰かがまたこの家に戻ってきた時のために、この箪笥の中に現金をいれておきます。龍輝(たつき)と結鈴(ゆり)もよく覚えておいてね?」
この世を去るために退職し、駐車場や車を手放した。
もう使う宛てなどないのに、皮肉にも大金が舞い込んできた。
佐助君名義の通帳にも大金が残っていて、それらをどうするか話し合った結果、佐助君が和室にある古箪笥を改造してくれた。
からくり箪笥にすることで、すぐに使える現金と、後々お金を引き出せるように通帳なども入れておくことにした。
佐助「俺ができうる限りの技術を駆使して作っておいた」
佐助君がからくり箪笥の仕掛けを説明し、一人ずつ開閉ができるか確認していく。
結鈴と龍輝にも、少し前から何回も練習させて一人で開閉できるようにさせた。
「現住所と家の電話番号が書いた紙とか、その他諸々ここにわかるように書いて入れておくから。ガスと水道は今月いっぱいは使えるようにしてあるからね」
龍輝「ママ……難しくてわかんない」
「そうだね、龍輝達がもう少し大きくなったら説明してあげる。心配しないで。
ただしこの間から何度も教えた郵便局と、銀行のATMの場所だけは覚えておいてね。
お金をおろせる場所がわからないと通帳が使えないから」
龍輝・結鈴「「うん」」
「今から少し寝て、時間になったら起こすからすぐ起きるんだよ?
寝坊したら500年前にいけなくなっちゃうから」
龍輝・結鈴「「はーい」」
現代で貴重品と言える全てのモノを箪笥に仕舞いこみ、この世を去ろうとしている。
現代との別れが胸に迫ってきて少し苦しかった。