第3章 看病一日目 可愛いは褒め言葉
(どうせ本物の姫様のように、しとやかさも優雅さもないです!)
「だから私は姫ではないと言ったはずです」
『姫らしくない』なんて言われ慣れているはずなのに、謙信様に言われると『女らしくない』と言われたような気がして、胸がズキリと痛んだ。
ちょっと凹みそうになって俯くと、頭に謙信様の手が乗せられた。
謙信「ネズミだろうが虫だろうが、お前が怖いと思うモノが出たら俺を呼べ。
ここにいる間、俺はお前を守る責任がある。
傷ひとつ負わせない」
「えっ?」
最後の言葉に胸がきゅっと締め付けられた。
謙信様は何事もなかったように席に戻り、食事を再開させた。
佐助「舞さん、謙信様はこう見えて凄く心配しているんだ。
何かあったらすぐに言って欲しい。俺も動けたら助けるから」
「うん。ごめんね、心配かけて…」
謙信「誰が心配していると言った?勝手に解釈するな」
そう言っているものの謙信様は心配して声をかけてくれたんだろう。
(意外だ。『ネズミくらいで騒ぐな』って叱られるかと思ったのに)
ネズミを退治しただけなのに、こんなに二人に心配させてしまうとは思わなかった。
食事の邪魔をするよりも、こんなふうに心配させてしまう事の方が申し訳なく思う。
何かあったら頼ろうと決めて、ようやく箒を置いた。
佐助「ところで気になっていたんだけどあそこの重箱は何が入っているの?」
佐助君の視線の先は城から持ってきた重箱だ。
「昨夜信長様や秀吉さんが急に出かけたとかで厨に朝ご飯が残っていたの。
私がここで朝餉を作るよりすぐ食べられて良いかなと思って貰ってきたんだけど…」
謙信「……」
謙信様に拒否されたとは言いにくく、口ごもる。
佐助君が興味を示してくれたので、とりあえず蓋を開けて中身を見せた。
佐助「それは一度頂いてみたいな。安土城の料理人は、料理好きの政宗さんの影響を多大に受けて美味しいものを出すと噂なんだ。
たくさんは無理だけど少し頂いても良い?
もちろん君の料理を残すつもりはないから安心して」
「本当?無理しなくて良いよ。あ、待って、いま取り分け用のお箸とお皿を持ってくるから」
謙信「おい、佐助」