第1章 触れた髪
その次の日の夜、自室でこっそりと薬を飲んでいると天井からトントンと音がした。
「佐助君?どうぞ」
天井の板が一枚動くと佐助君が顔を出して、音もなく着地した。
私は用意していた湯呑にお茶を入れて佐助君に座布団をすすめる。
「どうぞ座って。ここに来てくれるの、久しぶりだね」
佐助「ありがとう。以前よりも忍び対策が強化されていたけど、それを潜り抜ける事に達成感を感じる」
「え?」
ずず、とお茶を飲む佐助君はすっかり忍者が板についている。
「ふふ、佐助君。すっかり忍者だね」
「ああ。舞さんもここでの生活に馴染んでいるようで安心した。
ところで薬を飲んでいたようだったけど、どこか具合悪い?」
気遣うように佐助君が私を見つめてきた。
「あ、ちょっと、その…お腹と頭が痛くて…」
説明するのが気恥ずかしくて薬の箱を見せた。
『つらい生理痛・頭痛・発熱にすぐに効く』という謳い文句が書いてある。
毎月じゃないけど生理痛が酷くなる時があってバッグに入れて持ち歩いていたものだ。
佐助君は察してくれたようで、コホンと小さく咳をすると視線を落とした。
佐助「ごめん、立ち入った事を聞いて。そう言えば今日ここに来たのはワームホールについてだ」
「っ!何かわかったの?」
気恥ずかしい気持ちが一気に吹き飛んで、佐助君の方に身を乗り出す。
この時代に飛ばされた当初、佐助君の見立てでは『3か月後』にワームホールが開くという事だった。
けれど直前になってその確率が一気に下がってしまい、その後は出現の気配もなかったのだ。
佐助君は右手人差し指で眼鏡を押し上げ、頷いた。