第3章 看病一日目 可愛いは褒め言葉
(な、なんか怒ってる!?)
怒らせるような事をしただろうかと行動を省みていると、謙信様が思いもしなかったことを口にした。
謙信「人前で睦みあうな」
(睦みあうなって、いちゃつくなって意味だよね!?)
「む、睦みあってませんっ!」
否定して慌てて立ち上がる。
佐助君の肩が冷えないように羽織をかけてあげてから土間に逃げ込んだ。
『舞さんを苛めないで下さい』『いつ俺が苛めた?』『たった今です』という主従の会話を聞きながら土間の整理をする。
買い物してきた物を使いやすいように配置していると動揺が治まってきた。
(はあ、動揺しすぎ)
諦めようと決めたとはいえ、それを捨てきれずにウダウダしている自分は謙信様の一挙手一投足にいちいち反応してしまう。
(未練がましくて嫌になっちゃうなっていうか、目の前にいるから余計刺激されちゃうんだよね)
謙信様が越後へ帰ってしまえばもう会うことはない。そうすれば踏ん切りもつくだろうか。
古ぼけた食器類は欠けたものや塗りが剥げたものが多く、それらを棚の隅に置いておこうと腰をかがめた時だった。
(っ!)
チョロチョロと小さな影が動き、声なき悲鳴をあげた。
ここで悲鳴をあげたら食事中の二人を邪魔してしまう。
(どうしよう?現代でお目にかかったことはなかったし。殺すのは嫌だな…)
「……」
互いの存在に気付いているのにどちらも動かず数秒たつ。
(とりあえず『これ』を追い払うなら箒だよね)
にらめっこしたまま先程使った箒を後ろ手で探す。
目をそらしたら逃げられる予感がする。
屈んだ状態で少しずつ後ずさりして箒が置いてあった場所に手を伸ばした。
堅い柄が手に触れそれをしっかり掴んだ。