第3章 看病一日目 可愛いは褒め言葉
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長屋に戻り、謙信様に料理を出したのは昼餉の時刻になっていた。
謙信様が半分くらい食べ進めた頃に佐助君が目を覚ました。
だるそうに半身を起して枕元に置いてあった眼鏡をかけると、寝ぐせはついているけれど『いつもの佐助君』の姿になった。
佐助「舞さん、昨夜も来てくれたって謙信様に聞いたよ。
怖い思いをさせてごめん」
申し訳なさそうに謝ってくる佐助君に首を振る。
「気にしないで。むしろいつもお世話になってるからお役にたてて嬉しいよ。
謙信様に迷惑かけちゃったけど貴重な体験でした」
そうかと佐助君は頬を緩ませた。
佐助「インフルエンザなんて今までかかったことなかったのに、ちょっと油断していたみたいだ。
舞さんが薬を持っていてくれて本当に良かったよ」
「佐助君が元気になるまで通うからユックリ休んでね。
そうだ、ご飯は食べられそう?
お城から滋養の薬を貰ってきたんだけど食後に飲んだ方が良いみたいなんだ」
佐助「ああ。幸い食欲はあるよ」
「良かった。熱が高かったから胃も弱っちゃったかなって心配していたの。
少し待っててね、佐助君のご飯持ってくるから。
ご飯はどのくらいが良いかな。少なめ、普通、大盛、特盛?おかゆにもできるけど?」
少しおどけてご飯の量を聞くと、佐助君の口元が少し上がった。
佐助「特盛なんて単語、久しぶりに聞いたよ。普通盛でお願いしようかな。食べられそうだったらおかわりをお願いするよ」
「うん、わかった」
水を入れた湯呑を渡して土間に下りる。
古ぼけた食器に料理を並べて、佐助君のところまで運んだ。
佐助「ありがとう。もしかして舞さんが作ってくれたの?」
「うん、急いで作ったから簡単なものだけど。そんなに期待しないでね?」
佐助君の目がいつもよりキラキラしているような気がしたので断りを入れておく。
『食べるのがもったいない』なんて言うから気恥ずかしくなっていると、謙信様とぱちりと目が合った。
冷淡な表情を見た瞬間に、囲炉裏が傍にあるというのに冷気を感じた。