第3章 看病一日目 可愛いは褒め言葉
(謙信様は何かと押しが強いな。ここは受け取っておいて支払う時は私のお財布から出せば良いよね)
そう思って素直に受け取った。
風呂敷を持ち、草履を履いていると背後に謙信様が立った。
顔だけ振り返って見上げると、謙信様が左手をこちらに伸ばしていた。
謙信「お前の財布をおいていけ。
俺の金を使ったと見せかけて、自分の金で支払うつもりであろう?」
(なんでわかったの!?)
図星を指されて固まっていると、謙信様がフンと笑った。
謙信「この間も『お前は単純だ』と言ったはずだ。諦めろ」
文句のひとつも出てこず、仕方なく胸元から財布を取り出して渡す。
謙信様はそれを懐に仕舞いこんだ。
謙信「最初から素直に受け取れば良いのだ。気を付けて行けよ。
あまり遅いようだと佐助を放ってお前を探しに行く」
「それは駄目です。急いで行ってきますっ!」
ピシャリと戸を閉めて早足で歩く。
(効率よく回らなきゃ!ええと…)
お店を回る順を決めようとメモの一覧を見る。
一覧の最後に流麗な文字で追加の品が書かれている。
「梅干しとお酒か。フフ、謙信様らしいな」
初めて見る謙信様の文字に胸がくすぐられる。
「あきらめが悪いな」
何度も心に封をしているのに、いとも簡単に想いが溢れてしまう。
ため息が寒さで白い靄(もや)となり空に溶け込んでいく。
私は襟巻が乱れないように押さえて買い物へと向かったのだった。