第3章 看病一日目 可愛いは褒め言葉
(看病一日目・姫目線)
「おはようございます、舞です」
年季が入った古い木戸に向かって声をかけると戸がすっと開いた。
外から姿が見えないよう、謙信様は身を引いている。
「失礼致します」
重箱を持ち替えるフリをして、さりげなく後方に視線を巡らす。
誰もおらず、やはり護衛はついていないようだった。
戸を急いで閉めて、謙信様に頭を下げた。
「おはようございます。昨夜はありがとうございました。
ご無事に戻られたようで安心致しました」
謙信様のいつも通りの立ち姿に安堵する。
忍び姿も素敵だったけれど、いつもの着物と羽織の方がしっくりくる。
謙信「心配無用だと言ったはずだ。あがれ」
重箱と手荷物を部屋の片隅に置いて佐助君の様子を見させてもらう。
薬が効いているのか熱は下がっているようで、寝顔も穏やかだ。
「薬が切れればまた上がるだろうけど、でも良かった」
ホッと胸をなでおろし、謙信様に向き直った。
「佐助君の意識は戻りましたか?」
謙信「ああ。半刻前に目覚めて自力で水を飲んでいた。
お前が今日から看病に来ると聞いて起きていたが、今しがた寝たところだ」
「目を覚ましたんですね!佐助君…待っていてくれたのに来るのが遅くてごめんね」
寝坊はしなかったけれど、もう少し早く来れば良かった。
申し訳なくて佐助君の髪を撫でた。
「謙信様、お腹すいていませんか?お城の厨からお料理を分けてもらってきたんです。
昼餉は私が作りますけど、朝はお城のご飯で我慢していただけませんか?」
チラリとかまどを見ると火の気配はない。
おそらく朝ご飯はまだだろうと思って声をかけた。
謙信様は昨夜と同じく囲炉裏の傍に座っているけれど、その顔は厳しかった。
謙信「安土の城で作られたものなど、いらん」
「毒が心配でしたら、私が毒見をしますから」
そう言っても頑として首を縦にふらない謙信様に途方に暮れる。
(これは絶対食べてくれない感じだ)
「じゃあ、今から何か作りますね。毒が心配でしたら、傍で見ていてください」
それはそれで悲しいけれど、この乱世において不用意に食べ物を口にしないのは当たり前なのかもしれない。
謙信「作るのはかまわんが、食材はない」
「えっ?」