第3章 看病一日目 可愛いは褒め言葉
重箱を持って城を出た。
いつもなら秀吉さんに断りを入れてから出かけるけれど不在なので三成君の枕元に『城下へ出かけてきます。夕方には戻ります』と書置きをしてきた。
昨夜はあんなに苦労して渡った橋を堂々と歩いて渡る。
角を曲がり小道に身を隠してみたけど数分待っても誰も通らない。
(護衛はついてないみたい)
心配性の秀吉さんが居ればこっそり護衛をつけられていることもあるけれど、今日は大丈夫そうだ。
「よし、行こう」
後ろを気にしながら足早に歩きだす。
ヒュウと風が鳴り、襟巻を口元まで引き上げる。
「昨夜は薄着だったけど寒さを感じなかったな」
(走っていたせいかな。それとも…)
不意に謙信様の温もりを思い出して頬がカッと熱を持つ。
「いやいやいやいや。意識しない、何でもない。
私は現代に帰る、諦めるって決めたじゃない」
そう自分に言い聞かせ、二人がいる長屋へと急いだ。