第3章 看病一日目 可愛いは褒め言葉
「いただきます」
味がよくしみた煮物や焼き魚、冬野菜がたくさん入ったお味噌汁を食べながら、はっとする。
「看病に行くんだった!」
昨夜の疲れもあって、ゆっくり味わいたい気分だったけれどそうもいかない。
急いで食べ終え、昨夜からお団子にしたままだった髪をほどく。
「うわぁ、ボサボサだ」
髪に水をつけて櫛をかけたくらいじゃ真っすぐには戻らなさそうだ。
仕方がないので髪を二つに分けて編み込み、それを織紐で一つにまとめる。
この紐はいつか光秀さんがお土産だと言ってくれたものだ。やや光沢のある白色の糸と主張しすぎない薄水色の糸が組み合わさっていてとても綺麗な品だ。
500年後の世では馴染みのない織紐だったけれど、髪をまとめる時に重宝している。
意地悪ばかりする光秀さんからの美しい贈り物に、目を白黒させてしまったのは先月の話だ。
身だしなみを整え終えて厨へ膳を戻しに行く。
「ごちそうさまでした。膳を返しに参りました」
後片付けをしている料理番の人に声をかけると、一人がいそいそと近づいてくる。
料理番「姫様!置いておけば後から伺いましたのに」
「お膳を片付けるくらいできます。あまり甘やかさないでください」
料理番「舞様は姫様なのですから気を使わないで下さい」
料理番が申し訳なさそうに膳を受け取り、洗い場の方へ持っていく。
それを目で追っていると、さっき食べた煮物が鍋にたくさん残っているのが見えた。
「あの、もしかしてその煮物って余っていますか?
もし良かったら少し分けて頂きたいのですが…」
料理番「これですか?どうぞどうぞ。
昨晩の内に仕込んでおいたんですが、朝起きてみたら信長様達がいらっしゃらなかったものだから残ってしまったんですよ」
城下の知り合いが寝込んでいるので食べさせてやりたいと事情を話すと、料理番の人は重箱を出してきて煮物だけでなく朝餉に出された他の料理もきれいに詰めてくれた。