第42章 現代を楽しもう! ❀山梨編❀
信玄「だがその舞の励ましの言葉と口づけのおかげで俺は目が覚ますことができたんだ。一人では起きられずに戦っていた俺を助けてくれたんだよ。
陣中見舞いだろう?特に深い意味はないさ」
謙信「お前は謝罪という言葉を知らんのか。
俺の妻にそのような責を負わせるなど、許せん!」
信玄「ははっ、悪かったよ、謙信。
この通り謝るから許してくれ」
謙信「随分軽い謝罪だな。家に帰ったら久しぶりに姫鶴を抜く、覚悟しろ」
信玄「物騒なものをこの世で抜くな。せめて木刀にしてくれ」
謙信「いや、そんなものでは生ぬるい」
信玄「あー、佐助。早く帰ってきて謙信を止めてくれ」
戯言を交わしながら思う。
俺は知っている。
俺があの宿から去った後、信玄が舞にした仕打ちを。
その時に信玄が抱(いだ)いたであろう想いを。
問い詰めたら『舞に手酷くふられた』とあっけらかんと言っていたが俺にはわかった。
信玄の心が舞によって奪われたことを。
ともに暮らすようになって1年経ったが、信玄は偽るのが上手い。
舞は全く気付いていないが信玄の心はずっと……
信玄「なーに、そんな顔してんだ。姫の心は謙信、お前のものだろう?
不安に思うことなんてひとつもない。しっかりしろよ」
バシッと背中を叩かれ顔をしかめる。
謙信「信玄、事ある毎に背中を叩くな」
信玄「お前が無駄なこと考えているからだろう?
姫とお前を裏切るつもりはないよ」
謙信「ふん、言葉で信じさせようとするなど信玄もこの世に毒されたな」
信玄「この世は言葉が武器だ。なら言葉で伝えるしかないだろう?」
戦場で本気を出せば誰よりも鋭い刀を振るう男が、悠長なことを言ってくれる。
呆れ半分で信玄の顔を睨んだ。
謙信「裏切りなど日常茶飯事の時代で生きてきた俺達に、それが通用するとでも思うのか」
信玄「通じる奴と通じない奴が居るだろうが、謙信は通じる相手だと俺は思ってるよ」
謙信「………」
まったくもって憎たらしい。が、憎めぬ男だ。
俺は大きく息を吐き立ち上がると舞の元へ歩み寄った。