第3章 看病一日目 可愛いは褒め言葉
(姫目線)
女中「舞様、おはようございます」
心身共に疲れ果てて眠っていると襖越しに呼びかけられた。
盛大に寝坊したのかと慌てて起き上がった。
視線をおろすとスポーツウェアを着たままだ。
(まずい、こんな格好見せられないよ)
襖を開けられても見られないように、もう一度布団に入りなおす。
天井を見ながら『謙信様は無事に帰れたかな』と思いを巡らす。
「おはようございます。もしかして寝坊してしまいましたか?」
女中「いいえ。いつも通りの時間です。朝餉ができたのでお持ち致しました」
「信長様達はお忙しいのですか?」
毎朝広間で食べていたのに。
私を験担ぎとする信長様が『お前の腑抜けた顔を見て、一日の始まりとする』とおっしゃったので、二人で広間で食べるようになった。
それを見て秀吉さんが三成君を連れて『三成、今日からお前もここで食べるぞ』と言い出し、気が付けば全員が揃って朝餉を食べるようになっていたのだ。
女中「信長様と秀吉様は昨夜、お出かけになられました。
光秀様は数日前から城を出ておられますし、三成様は昨夜市中見回り役でしたので眠っておられます。
ですので、お部屋までお運びいたしました。運び入れてもよろしいでしょうか?」
「あ!そこに置いてください。たった今起きたので仕度したら自分で運びます」
女中さんは返事をして去っていき、私は大慌てで着替える。
寝不足で少し頭がぼうっとするのは仕方ない。
襖を開けると身だしなみを整えるためのお湯と、美味しそうな朝餉の膳が置いてあった。
「わあ、美味しそう!それにしても秀吉さん、昨夜はお城に居たのに。
あの後出かけたってことだよね」
膳を部屋まで運びながら昨夜を思う。
だとしたら相当遅く、日付が変わってから出かけたのだろう。
「皆、いつ寝てるのかな」
夜に寝て朝起きる、という当たり前のことを安土の面々は誰一人実践していない気がする。