第42章 現代を楽しもう! ❀山梨編❀
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「三人ともお酒臭いですよ。少しベンチに座って休んでください」
舞にそう諭され、外に設置されていたベンチに腰掛けた。
舞と結鈴、龍輝は目の前の広場で虫をみつけたのかしゃがみこんで何かしている。
佐助は手洗いに立ち、ベンチには信玄と俺だけだ。
信玄「いやー、あのワインってやつは結構強いな。それにしても龍輝はワインの香りで舞の好みがわかるみたいだったな。さすがお前の息子だな」
謙信「おそらく以前舞が飲んでいたワインの香りを覚えているだけだろう。
それが好みかどうかはわからんぞ?」
信玄「ふっ、そうだな。勝敗の行方は旅が終わってからだな。楽しみだ」
遠くで結鈴が何かに驚いたように『ひゃあ!』と頓狂な声をあげて、舞と龍輝がおかしそうに笑っている。
信玄「姫が500年後に帰る道を選んだのは偶然だったが…救われたな」
謙信「……ああ」
信玄が言わんとしていることは俺も理解している。
もし舞があの時代で子を産んでいたとしたら…
おそらく結鈴は
殺されていただろう
謙信「……」
想像しただけで身を切られる思いだ。
あの時代、双子は忌み嫌われている。
男児は俺の跡継ぎとして生かされ、女児は産声を強引に塞がれ、存在を闇に葬られたことだろう。
何も知らず三人は楽しげに笑っている。
謙信「俺が養子に迎えたのは息子達ばかりだったゆえ、結鈴が可愛くて仕方ない。
俺と舞は辛い想いをしたが、結鈴を救えたなら本望というものだ」
酔いもあって口が軽くなった。
素直に心の内を晒すと信玄が目を見開き、ゆるく口元を綻ばせた。
信玄「お前も人の親になったなー。随分と人間らしくなった」
ははっと呑気に笑った顔こそ、
謙信「お前とて随分爪が丸くなっているのではないか?」
信玄「そう見えて隠してるかもしれないぞ?
しかし500年後の甲斐の国はこうも平和で美しいんだな…。
土地は拓かれて変わってしまったが緑は多いし景色もきれいだ。様々な果物が豊富にとれ、ワインまで作られているなんて想像もしていなかったよ」
遠くを見遣る信玄の目は澄んでいた。
血なまぐさいあの時代ではお目にかかったことがない穏やかな顔をしている。