第41章 現代を楽しもう! ❀信玄の企み❀
頼んだ品を若い女の店員が運んできた。
信玄「ありがとう」
礼を言って受け取ると、店員ははにかんだ表情を浮かべて去っていった。
ショートボブの髪に緩くパーマをかけていて可愛らしい雰囲気の娘だった。
この時代は服や食事だけではなく、髪型や化粧も多種多様だ。
最初は髪が短い女を見るたびに童女のようだと驚いたものだが、もう慣れた。
信玄「こっちの子は肌はキレイだし、垢ぬけていてかわいい子が多いな」
きっと以前の俺ならさっきの子に甘い言葉のひとつやふたつ囁いていただろう。
だが残念ながら俺の心は違う方に向いている。
一生報われないが、それでも良いとひとりの女を見ている。
謙信「……」
窓の外に向けていた二色の瞳がこちらを睨んだ。
謙信「俺の貴重な時間を奪っておいて女の話か」
「別にそういう訳じゃない。挨拶がわりみたいなもんだ。
たまには店で淹れたコーヒーも美味いだろ?
姫が言っていたぞ。豆の種類や淹れ方で味が変わるってな。
こっちに居る間しか飲めない代物なら、今のうちに違いを味わっておくのも良いだろう?」
謙信は表情のない顔でカップに口をつけた。
こいつの性格を知っていれば粗方返事は予想できる。
謙信「こっちに居る間しか飲めない代物なら、今のうちに舞が淹れたモノだけを飲んでいたい」
やっぱりだ。
こいつはコレと決めたらそれしか選ばない。
信玄「やれやれ、お前がそんなだから、この間姫が散財してたぞ?」
コーヒーを飲んでいた手が止まった。
謙信「……どういうことだ」
信玄「飲み物も食事も外に出れば選び放題だろ?
それなのにお前は姫が淹れたもの、作ったものを求めて他のものを口にしないだろう」
謙信が居ない時に買い物に付き合ったら、姫は幾種ものコーヒー豆を選び、食事も和洋中様々な料理を食べて欲しいとアレコレ買っていた。
信玄「『外で食べないなら私が作ってあげる』って、カゴいっぱい買い込んでたよ。
姫は仕事しながら家でも勉強してんだ。少しは気を使って楽にしてやれよ」
謙信「………」