第41章 現代を楽しもう! ❀信玄の企み❀
信玄「カフェオレをひとつ」
謙信「ブレンドコーヒー」
店員「かしこまりました」
語学の個人レッスンを受け、帰り際たまたま謙信と一緒になった。
いつもならレッスンが終わるとさっさと図書館行きか、姫の家に直行だが今日は珍しく俺より遅く出てきた。
一緒に行動する機会は多いが語学は個別指導だし、剣道の指導やフェンシングの習得、姫の家事をこなしてやったりと、ストイックに動く謙信と話す機会はあまりない。
たまにゆっくりしたらどうだと強引にカフェに連れ込んだ。
面倒だと言わんばかりの顔をして、謙信は窓の外に視線を向けている。
道行く人々は、
急くように駅に向かっていく者、
制服を着て賑やかに歩く学生達、
犬を連れ、立ち止まって談笑している者達…
違いはあれど共通しているのは全く警戒心がない点だ。
刀も銃も禁止され、戦を放棄して久しい今の日ノ本では、どこに行っても皆が平和の只中に身を浸している
その者達と何食わぬ顔で肩を並べているが、悲しいかな、俺達は完全には馴染むことができない。
常に人の仕草、空気の流れ、こっちに来てからは自動車や自転車にまで気を張り巡らせている。
こうして外で食べ物を口にする時も、口に入れる前に匂いを嗅ぎ、ひとなめして毒の有無を確かめる。
平和な世とはいえ怪しいものが皆無ではないし、機械は時に制御不能になる。
疑ってかかって損はない。
生まれた時からそうやって警戒しなければ生きてこれなかった俺達は、この時代で浮いた存在なのだろう。
なるべく馴染ませてはいるが難しい。
まあ、目の前の男は昔の通り何も変わらないが。
はなから馴染もうとしないところが清々するくらい潔い。