第37章 現代を楽しもう! ❀北の旅編❀
スタイリスト「素敵な旦那様ですね。舞様のことをとても大事にしていらっしゃるのが伝わってきます」
「私には勿体ないです」
素敵すぎて、と惚気そうになって口を噤む。
スタイリスト「何をおっしゃってるんですか。舞様もとても素敵ですよ?」
私の唇にグロスを足しながらスタイリストさんが微笑んでくれた。
返答に困っていると背後から足音がして、不意に手を取られた。
信玄「やあ、遅れてすまないな、姫」
「信玄様?どうなさったんですか?」
信玄様は破壊力満点のウインクをしながら、
信玄「バージンロードは父親と歩くもんだろ?
役不足だろうが君の父上の代わりだ」
「えぇ!?き、聞いてないですけど、良いんですか?」
信玄「良くない。できればこのまま君を攫いたいくらいだ。
今日の君はこの世のものとは思えないくらい美しいよ」
信玄様の甘い台詞に、周りに居たスタッフの面々が驚きで固まっている。
プロだから声に出さないけど、面白そうな展開に好奇心で目が光っている。
(ま、また信玄様ったら、こんな時にまでからかうんだから!)
「駄目ですからね!そんなことしたら謙信様に地の果てまで追いかけられますよ?」
信玄「ははっ、そりゃあ面倒な展開だな」
軽く笑って優雅な所作で手を引いてくれた。
女性スタッフたちから感嘆のため息がもれた。
信玄「この期に及んでそんなことしないさ。今はあいつのために微笑んでやってくれ」
甘い眼差しと蠱惑的な笑みを浮かべるこの人を父の代わりなんて到底思えないけど、謙信様と私のことをいつも見守ってくれていたという点は間違いない。
「ふふ、お願いしますね、信玄様」
信玄様の腕にそっと手を絡ませた。
目の前の扉が開き、真っ直ぐに伸びるバージンロードが見えた。
「……」
『父』と聞いて、500年前に居る『お父さんみたい』と思ったあの人を……少しだけ思い出した。