第35章 現代を楽しもう! ❀お寺編❀
――――
――
帰り際、謙信様がお寺の正面から少しずれて、20メートルほど離れた場所で立ち止まった。
玉砂利が敷いてあるだけで何もない場所だ。
(ここは……)
思うところがあって、自然と私は黙りこんだ。
謙信「住職、この周辺の地を掘り起こして何かしたという記録はあるか?」
住職は不思議そうな顔をして首を振った。
住職「いいえ、そのような記録はございません。玉砂利の交換や、追加は行われておりましょうが…」
謙信「ならばここの地中深くに石を彫って作った毘沙門天が埋まっているはずだ。
表立って毘沙門天を据えることはできなかったが、舞を現した本尊が一人寂しくないよう、この地に天災や、戦の災いが降り注がぬよう、このあたりに毘沙門天を埋めるよう指示しておいた。
寺を訪れた者達に踏まれぬように東にずらした、この辺りだ」
住職「なんと…それは……」
「…………っ」
ご住職と私の目が合った。
謙信「ただしこの寺を俺が建てた証拠は先程の書で充分足りる。
無理に掘り起こすことはないだろうから、どうするかは任せる」
(うそ………じゃあ……)
敷かれた玉砂利を見つめていると涙が溢れた。ここは私にとって特別な場所だ。
だって私はここに…
謙信「舞、どうした?」
「ここ、なんです。ワームホールから出た時、私はここに降りたんです」
謙信「ここに?」
涙しながら頷くと、不意に謙信様の腕が肩に回った。
見上げると至極真面目な顔で言われた。
謙信「この寺のこの場所に舞い降りたのは最早偶然とは言えない。
舞はワームホールを開く力の他にも不可思議な力がありそうだ。俺が舞のためにと心尽くした場所、強く想いを残した場所にお前は降りたのだろう」
「力についてはわかりませんが……ワームホールの中で謙信様を強く想っていたのは確かです。
離れたくなくて無意識に謙信様の痕跡を、気配を求めて、ここに降りたのかもしれません」
謙信「本当にお前という女はいつも俺の想像の上をいくな」
謙信様は嬉しそうに笑い、私も小さく頷いた。
住職「お二人には運命的なものを感じますな…」
ご住職の温かな笑みに見送られて私達は寺を後にした