第35章 現代を楽しもう! ❀お寺編❀
数秒見つめ合った後、謙信様は名残惜しそうに視線を外し、ご住職に向き直った。
謙信「住職、ひとつ頼みたいことがある。
舞、来る前に預けた物を出してくれるか」
「はい」
唐突に言われ、ショルダーバックから預かっていた物を取り出した。
謙信様は文のようなものを住職の前に並べた。
謙信「この地は信長が治めていたゆえ、再建する際の条件として俺が建てたとわからぬようにしろと言われた。
寺の再建に関わった者達がわかれば俺が建てたと明るみになる恐れがあった。造り手達には申し訳なかったが、造り手がわからないようにしろと命を下した」
眉間に寄った皺が謙信様の苦悩をあらわすようだった。
謙信「500年後、1000年後まで自分が作った物が残るならと快く引き受けてくれた者達がこの寺を造ってくれたのだ」
謙信様の視線が和紙に落とされた。
色違いの目の奥にゆらゆらと熱い想いが揺れていた。
謙信「あれから500年がたった。あの時生きていた者はもう居ない。安土だ、越後だとあの頃のようのように国同士の諍いもすでにない。
俺が建てたと明るみに出ても問題ない今、
その者達の名をどうか世に知らしめて欲しい」