第2章 夜を忍ぶ
ムッとした様子に、日頃佐助君との会話に困惑しているのだろうと予測できた。
言いなれない言葉を口にする謙信様が少し可愛らしく感じる。
「ふふ、申し訳ありません。フェアじゃないというのは公正さに欠けるという意味です。
謙信様は堂々と身元を明かしてくださっていたのに、こちらが隠しているのは不公平ですし、心苦しかったんです。
たとえ謙信様に突き放されようとも真実をお伝えしようと思っていました」
謙信「そこまで律義に考える義理はなかろうに難儀な性格だな」
その声には呆れが含まれている。
それでもアレコレ問い詰めてきた時とは違い、態度が柔らかい。
「律義でもなんでもないです。せっかくお話できるようになったのに隠し事をしたくなかっただけです。
ご一緒したのはほんの少しですが、一人の人として謙信様のことが好きですから」
謙信「……看病したいのなら好きにすると良い。
ただし護衛がついてきた場合は巻いてから来い」
(織田軍の人間だと知っても、ここに来ることを許してくれた!)
トクンと胸が鳴る。
「ありがとうございます。佐助君が治るまで、城で朝餉を済ませたらこちらに伺いますね。
夕方には帰らなくてはいけませんが」
謙信「わかった」
「佐助君が回復したら、謙信様には一切近づかないとお約束致します。
本当に申し訳ありませんでした」
深く頭を下げる。
(もう一度お酒を飲みたかったな。もっと謙信様のこと、知りたかった)
こみ上げる想いに必死で蓋をする。
沈黙が訪れ、佐助君の苦しそうな息遣いだけが聞こえる。
謙信「別に近づくなとは言わん。
ただ俺と居るのを見られて困るのは舞ではないのか?」
(え?それって…)
パッと顔をあげ、謙信様の顔を見ると戸惑ったような顔をしている。
(近づいてもかまわないってこと?それに私の事を心配してくださっている?)