第2章 夜を忍ぶ
「謙信様。佐助君が治るまで、ここに通いたいのですが駄目でしょうか?
この病気は数日間高熱が続きます。佐助君は体力があるから大丈夫だと思いますが、重症化すると肺や脳を患います。
そうならないように看病してあげたいのですが」
謙信「……」
重症化しないように、にできる限りのことをしてあげたい。
「佐助君に何かあったら…私…」
目頭が熱くなる。
傍にずっと居たわけじゃないけれど、離れ離れでも同じ境遇の人間が居るというだけで心の支えになっていた。
一人になってしまうかもしれないと想像をしただけで孤独感に襲われる。
謙信「佐助に限って『何か』はない。安心しろ」
すぐ傍で声がしたと思ったら、謙信様が片膝をついて座っていた。
「謙信様…」
謙信「大切な者を失う痛みなど、お前は知らなくても良い。佐助は大丈夫だ」
(慰めてくれてるの?凄く怒って苦無を突き付けてきたのに、なんて優しい手なんだろう)
同一人物とは思えない対応に、何を考えているのかわからなくなる。
でもこちらを見る謙信様の瞳には切なさと寂しさのようなものが漂い、さっきまでの怒りは失せているようだった。
(この言い方。きっと大切に思っていた方を亡くされたことがあるんだろうな)
乱世に生きているならそれは当たり前にあることだろう。
でもなぜか謙信様にはそれ以上の影がある。
そんな予感がした。
「嘘をついていた人間に優しくしないでください。そんな資格ないです」
頭にのせられた手をとって謙信様の方へ戻す。
謙信様はさっきの質問をした時と同じように、真意を探るように目つきを変えた。
謙信「ひとつ確認だ。お前は以前、話していないことがあるから次に会った時に聞いてもらいたい、と言っていた。
それは『安土の姫』だと打ち明けようとしていたのか」
(私との会話、覚えてくださっていたんだ)
「そうです。隠し事をしているのがフェアじゃないと思ったんです」
謙信様「ふぇあ、とはなんだ?…やはりお前達は同郷だな。訳のわからん言葉を使う」