第32章 眠り王子に祝福の…を
信玄「手術から大分日が立っているのも、君達が心配してくれているのも感じてた。
意識は微かにあるものの誰にも伝えられず、このまま暗い世界に囚われたままなのかと無力感に襲われていた」
信玄様が弱音を吐くところを初めて聞いた。
(心許してくれてるのかな)
信玄様の手をきゅっと握る。
信玄「そんな時に君が見舞いに来てくれて芳しい香りを嗅がせてくれた。
返事もしない俺を何度も励ましてくれた。
謝る必要はないのに、君は俺に謝って……口づけてくれた」
「そ、それは、そのっ!」
信玄様は小さく笑った。
信玄「手術前の口づけで俺は充分支えられたよ。
あれこれ考えていたことを一瞬で吹き飛ばして心を浮き立たせる威力があった。君に感謝したくらいだ」
優しく細められた瞳はとても澄んでいた。
信玄「さっき君からもらった祝福の口づけは強烈だったよ、忘れない。
君の言葉と温もりが俺を呼び起こし、あの暗い世界から引っ張り上げてくれたんだ」
白くやつれた顔にさぁっと赤みが走る。
信玄「君は本当に天女のようだな」
笑った目が少し潤み、輝いた。
それはなんの穢れもない綺麗な笑みで、神聖なものだった。
「ふふ、そう言ってくださるのは信玄様だけです」
つられてウルウルしてしていると雰囲気を打ち破るようにパタパタと駆けてくる音がした。
「すみません、子供達が来たようです。うるさくなりますが我慢してくださいね」
目尻に溜まった涙を急いで拭い、平静を装う。
信玄「平気さ。むしろ大歓迎だよ。
あの二人の声はいつも楽しそうで、無邪気で、寝ながらいつも心癒された。子供はいいものだな」
「ふふっ、はい!」